耀風ビジョン

日台クロスボーダー協業に潜む見えないコスト:説明不足が招くプロセス硬直と信頼低下

多くの日本企業と台湾企業がクロスボーダー協業の停滞を振り返る際、議論は制度設計に集中しがちである。プロセスが遅いのか、規程が細かすぎるのか、書類要件が過度に保守的なのか――こうした論点は会議で繰り返し取り上げられる。しかし実務の現場を振り返ると、摩擦が生じ始める局面は、企業が自らの行動をどのように対外的に説明しているかと密接に結びついている場合が多い。制度は、外部から理解され、比較可能な情報を前提として機能する。説明が社内の共通認識にとどまっている限り、外部は十分な判断を下せず、既存のルールに従って不確実性に対応するしかない。本来説明が担うべき解釈の役割が、次第にプロセスや制度によって補完されていく。

台湾企業の内部では、「すでに対応している」という一言で議論が先に進むことが少なくない。その前提には、方向性は大きく外れておらず、細部は実行の中で整えていけるという認識がある。この表現は社内では効率的に機能するが、クロスボーダーの場面に入ると、外部はそれを根拠に判断を組み立てることができない。日本の親会社や投資家、金融機関が重視するのは、現状と当初の前提との乖離、そしてその乖離が今後の意思決定にどのような影響を及ぼすかである。説明が進行状況にとどまる場合、外部はリスクの範囲を評価できず、自ら解釈を補わざるを得ない。企業が感じる齟齬は、説明の仕方と判断に求められる情報水準とのずれから生じている。

同じ資料が、なぜ外部では異なるリスクとして読まれるのか

クロスボーダー協業においてよく見られる誤解の一つは、同じ資料を提供すれば理解も自ずと一致するという前提である。実務の現場では、資料はあくまで情報の器に過ぎず、判断はその資料がどのような文脈に置かれているかによって左右される。

台湾企業は行動によって問題に応答する傾向が強く、資料は実行結果を補足する役割を担うことが多い。一方、日本企業は判断のロジックを先に理解した上で行動を受け止める。前提条件や意思決定の経緯が明確でない報告書の場合、日本側は行動の妥当性を判断しにくくなり、結果としてリスク認識が高まる。このずれによって、社内運営は円滑でありながら、対外的なコミュニケーションで行き詰まる企業も少なくない。問題は能力や投入量ではなく、説明の仕方が相手の判断システムに十分に取り込まれていない点にある。

協業期間が長くなるにつれ、日本の親会社がプロセスや書類要件を段階的に細かくしていくケースは多い。こうした変化は信頼低下と受け取られがちだが、実務的にはリスクを補正する動きに近い。説明から安定した理解が得られない場合、制度は情報を固定化する手段として機能し、誤った判断を避けようとする。プロセスの増加や確認ポイントの引き上げは、説明しきれない部分を制度の軌道に載せようとする反応でもある。多くの企業はこの段階で問題の性質を見誤り、制度そのものを圧力の原因と捉えがちだが、外部が本当に見ているのは、企業の判断が十分に説明され、リスク評価に耐えうるかどうかである。

会計事務所は言語変換の交差点に立っている

このような構造の中で、会計事務所は制度運用の一部と見なされがちだが、実際には言語を変換する節点に近い位置にある。その前提として、企業自身が何を行い、なぜその判断に至ったのかを整理していなければ、専門サービスはそれらの判断を外部が理解できる形に変換することができない。企業の行動が外部に伝わらない場合、専門家の関与の焦点は意思決定そのものを修正することではなく、説明の仕方を整えることに置かれる。

実務において会計士が最初に行うのは、企業が用いてきた説明の構造を見直すことである。社内では出来事や結果を単位とした共有が一般的だが、外部のシステムが求めるのは判断の流れである。どの前提がいつ成立していたのか、どの条件が変化したのか、そしてそれらの変化が当初の財務見通しやリスク評価にどのような影響を与えたのかは、外部が強い関心を持つ一方で、必ずしも社内で十分に言語化されていない部分である。

次に、会計士はこうした断片的な判断を、追跡可能な構造へと整理していく。予算と実績の差異をどのように説明するか、重要な判断が複数の資料で一貫して示されているか、意思決定の理由が時間軸に沿って対照できるかといった点が含まれる。これらは一見すると技術的な作業に見えるが、実際には外部が繰り返し確認できる説明の枠組みを構築するプロセスである。

クロスボーダーの文脈では、この変換は特に重要となる。日本の親会社や投資家、金融機関は企業の日常的な意思決定に関与しておらず、文書や制度を通じて行動を理解するしかない。会計事務所の役割は、その距離の中で、表現の不明確さによって企業のリスク評価が引き上げられることを抑える点にある。専門サービスが担うのは、企業を擁護することでも、新たな物語を作ることでもなく、すでに行われた判断を明確で比較可能な記録として残すことである。それらが制度の言語として一貫して示されてはじめて、外部は環境変化と企業の前提条件とを区別できる。会計事務所は、企業が理解されるか誤解されるかの境界に位置している。

クロスボーダー管理はいかにして行き詰まりを抜け出すのか

クロスボーダー管理に摩擦が生じた際、企業はまず制度面に原因を求めがちである。その結果、プロセスや書類は増え続け、コミュニケーションコストは上昇する一方で、信頼関係はなかなか築かれない。このような状況では、問題の焦点は企業が自らの行動をどのように対外的に説明しているかに立ち戻ることが多い。説明が制度によって理解されるかどうかは、制度運用が必要な範囲にとどまるかを左右し、その後の確認メカニズムの密度にも影響を与える。

企業にとって改善の鍵となるのは、自らの判断の流れを一貫した形で説明できているかどうかである。当初の前提が何であったのか、どの条件が変化したのか、そしてその変化が今後の意思決定にどのような影響を及ぼすのかが、明確かつ繰り返し説明されれば、外部は既存の制度枠組みの中で評価を行うことができ、確認プロセスを追加する必要性も低下していく。

多くのクロスボーダー企業にとって、有効な改善は、一つひとつの調整が理解可能で追跡できる説明として残されているかどうかにかかっている。説明が解釈の役割を果たすようになると、制度が担う役割は安定し、摩擦が継続的に蓄積される可能性も低くなる。不確実性が常態化する経営環境において、理解されやすさは投入量よりも早く評価に影響を及ぼし、クロスボーダー経営が安定して機能するための前提条件となっている。