1. 禁止から容認へ
2. 現状とデータ
制度緩和を受け、いくつかの大手企業が先行して取り組みを始めました。富士通は社員が本業以外で報酬を得る活動を認め、三菱地所は副業の上限を月 50 時間までと定めました。ライオンは勤務 2 年以上の社員を対象に副業制度を導入しました。その他、日立や資生堂などの大手企業も条件付きで副業を認め、一般的に申請・承認制を取っています。全面的な解禁ではなく、一定の条件下で徐々に容認が進んでいるのが実情です。
統計もこの動きを裏付けています。総務省「就業構造基本調査」によれば、2022 年には約 305 万人が副業に従事しており、労働人口の約 5%に相当します。労働政策研究・研修機構(JILPT)の 2024 年の調査では 6%に上昇しています。パーソル総合研究所の 2024 年調査では、正社員のうち 7%が副業を行っており、副業による平均月収は約 6.5 万円でした。この数値はあくまで調査対象者の平均値であり、業種や職種によって大きく異なります。さらに 20〜30 代の従業員の半数以上が「副業をやってみたい」と回答しており、潜在的な需要は現状を大きく上回っています。こうした動向を受け、企業はなぜ副業を認めるべきかを再考するようになっています。
3. 企業が容認に向かう理由
副業が広がり始めた背景には、政策的な後押しと企業経営上の要請の双方があります。政府は副業を「働き方改革」の一環と位置づけ、柔軟な労働力活用を促進し、地方経済の活性化にもつなげたい考えです。企業にとっても、副業容認は人材確保と定着に有効です。若い世代は多様なキャリア形成を重視する傾向が強く、副業を禁止すれば採用競争力を失いかねません。加えて、副業を通じて得られる知識や経験の「スピルオーバー効果」も注目されています。社員がデジタルマーケティングやスタートアップなど新しい分野に触れることで、本業に新たな視点やスキルを持ち帰り、組織の革新につながる可能性があります。最近では、副業を社員育成の一環とみなし、他の場での成長を本業に還元する仕組みを取り入れる企業も現れています。

4. 課題とリスク
とはいえ、副業解禁は全面的な自由を意味しません。最大の課題の一つは労働時間の管理です。日本の労働基準法では、複数の雇用先での労働時間を通算して計算する必要があり、上限を超えると企業が責任を問われる可能性があります。また、競業避止義務や秘密保持の問題もあり、企業は情報漏洩や利益相反を懸念しています。さらに、税務や社会保険も複雑さを増します。副業収入は確定申告で合算され、複数の雇用主における社会保険料の算定も煩雑になります。対応を誤れば、追徴課税や罰則、労使トラブルにつながる恐れがあります。
5. 台湾への示唆
台湾には副業を全面的に禁止する法律は存在しませんが、多くの企業が就業契約で兼業を制限しています。現状では副業はそれほど一般的ではありませんが、リモートワークやプラットフォーム経済の普及によって、従来の働き方は変化しつつあります。日本の経験から学べる点として、まず制度の透明化が挙げられます。副業の申告フローを整備し、許可される範囲と禁止される範囲を明確にすることが重要です。また、副業を単なる収入源ではなく、スキル開発の機会として位置づけることで、社員が新しい能力を身につけ、組織に還元する効果も期待できます。人手不足に直面する中小企業にとっては、副業人材の活用が短期的・プロジェクト型のニーズを満たす手段にもなり得ます。ただし、労働時間、秘密保持、競業避止といったリスク管理を怠ると、逆にトラブルを招く可能性があるため、事前の制度設計が欠かせません。
6. 専門サービスと今後の展望
副業の広がりは、日本の労働市場に税務・給与・コンプライアンスといった新たな課題を突き付けています。従業員にとっては、副業収入をどのように確定申告するか、海外案件では源泉徴収や二重課税防止条約の適用をどう判断するかが重要になります。企業にとっては、副業の申告・承認制度の設計や、社会保険料の適正な計算が不可欠です。これらは高度な知識を要する領域であり、外部の専門家の支援が求められます。
会計事務所はこうした場面で大きな役割を果たすことができます。給与や労務管理の仕組みづくり、副業収入や海外所得に関する税務アドバイス、さらには副業制度を人材に関する ESG 報告に反映させる支援まで、幅広いサービスを提供できます。これにより、企業は制度移行期に安定を保ち、従業員は新しいキャリアの形に挑戦する際に安心感を得られます。
日本の事例は、副業が周縁的な存在から主流へと移行しつつあることを示しています。社会の意識と制度設計が同時に変化する中で、台湾はこの経験を先取りして学び、自国の枠組みに取り入れることで、人材競争において柔軟性と優位性を確保できるでしょう。副業の普及は企業と個人の双方にとって新しい課題ですが、専門家の役割は、変化の中で適法性と安定性を確保しつつ、競争力を維持できるよう導くことにあります。