1. 企業統治における転換点
日本は管理制度が厳格で手続きも複雑なため、デジタル化の進展は遅れがちである。紙媒体の書類や老朽化したシステムが依然として広く残っており、新しいツールの導入コストは非常に高い。一方、台湾はICT産業の基盤を背景に、新技術の受容度が高く、多くの企業がAI導入を試みている。しかし、中小企業は資金や人材が不足しているため、活用は初歩段階にとどまり、包括的な計画を欠く。この「慎重で遅い日本」と「機動的だが資源不足の台湾」という対比は、補完関係が見えてくる。
2. 日本の遅滞と台湾のボトルネック
2018年、日本の経済産業省は「2025年のデジタル崖」報告を発表し、企業がレガシーITシステムに依存し続ければ、保守コストの増大、人材流出、競争力低下に直面すると警告した。調査によれば、日本の大企業がERPやクラウド導入に要する期間は数年に及び、西洋諸国よりも遅い。経営層の交代や社内の抵抗によって、計画が縮小・中断されることもしばしばである。
台湾は異なる状況を示している。パンデミック時、多くの企業が迅速にオンライン協働ツールやスマートシフト管理システムを導入し、柔軟性を示した。しかし状況が落ち着くと、後続投資を欠き、これらのシステムは次第に周縁化された。調査によれば、中小企業はデータガバナンスへの投資が乏しく、情報が部門やプラットフォーム間に分散し、高度なAI活用を支えるには不十分である。日本は制度の硬直性、台湾は継続的な投資不足と、課題は異なるがいずれも変革を阻んでいる。
3. AI活用の具体的場面
製造業では、AIによる画像認識で製品の欠陥を検出し、不良率や返品コストを大幅に削減できる。調査によれば、日本の製造業は老朽化した生産ラインや組織文化の壁から導入が遅れがちだが、台湾の中小製造業は設備更新が比較的早く、特定分野では先行して活用している。
サービス業では、消費データを中心に応用が進む。日本の小売業者は会員システムや購買履歴を統合し、精緻なマーケティングを展開している。台湾は規模は小さいが、ECやスタートアップの柔軟性が高く、広告配信や顧客分析でAI活用が急速に普及している。
金融業では、制度の違いがより鮮明だ。日本の大規模で保守的な銀行システムでは、AIは主に取引監視やマネーロンダリング防止に用いられる。台湾の金融機関は信用分析、保険引受、資産運用助言などへの応用を模索している。
ESGは近年最も注目される分野である。国際規範が企業にカーボン排出データの開示を求める中、AIはデータ収集、照合、検証に広く活用されている。台湾の技術企業がデータ処理ツールを提供し、日本の製造業がそれをグローバルサプライチェーンに組み込むという相互補完の協力が見えてくる。
4. 協力の契機と三層の課題
台湾は技術やシステム統合に強みを持ち、日本は市場規模と産業の厚みを有している。技術と需要を効果的に結び付けることができれば、越境モデルの開発が可能となる。台湾のスタートアップが解決策を提供し、日本の製造業が国際産業チェーンに組み込むことで、双方に影響力拡大の機会が生まれる。
しかし協力の道筋は平坦ではなく、課題は三つの層に整理できる。
- 規制:台湾と日本は個人情報保護や越境データ移転の規範に差異がある。日本の「個人情報保護法」は越境データ移転に「十分性認定」または契約上の担保を求めるが、台湾の規制は比較的緩やかだ。そのため、台湾のAIサービスが日本に輸出される場合、追加の法的手続きやコンプライアンス審査が必要となり、コスト増につながる。
個人情報やデータ移転に加え、税務規制もAI協力に大きな影響を及ぼす要素である。AIツールは多くの場合、SaaSプラットフォームやクラウドサービスとして提供され、越境取引では「電子サービス」とみなされる。日本では、海外事業者に対してリバースチャージ方式を採用し、日本企業が自ら消費税を申告・納付する必要がある。一方、台湾では、海外サービスの年間売上が一定基準を超えた場合に営業税の登録・納付を義務付け、B2B取引の場合は現地企業が申告を担う。これらの差異は一見技術的に思えるが、契約設計、請求書処理、税額控除に直結しており、対応を誤れば財務的な効果を損ないかねない。そのため、AIを活用した越境協力においては、税務計画を技術や法規制の遵守と並行して初期段階から組み込むことが不可欠である。
- 文化:調査によれば、日本の経営層はAIによる意思決定に依然慎重で、人間関係の信頼や経験的判断を重視する。この文化的傾向は新技術の定着を遅らせ、解決策が有効であっても内部の逡巡で停滞しやすい。台湾企業は柔軟に受け入れている一方で、制度構築や投資が追いついていない、協力時に期待や進度の齟齬が生じやすい。
- 外部市場:米国のクラウドプラットフォームと中国のAI応用はアジアに急速に浸透し、明確な市場優位を築いている。日台が規制や文化という内部課題でバランスを見いだせなければ、国際競争の中で立場を確立するのは難しい。協力には潜在力があるが、戦略を欠けば、より大規模な外部競合に埋没しかねない。
5. 圧力の中で未来像を描く
AIの波は台湾と日本双方を同時に試している。台湾の持続的資源の不足と日本の制度的硬直を浮き彫りにしている。互補性を基盤に協力を具体化できれば、それぞれの問題解決だけでなく、国際競争において新たな地位を築くことができる。
この変革の過程で、専門サービス機関は重要な役割を果たすことができる。会計事務所はコンプライアンス審査や税務計画を支援するだけでなく、ESGデータ開示や越境協力の枠組み設計にも貢献できる。AI導入が資本投資、補助金申請、内部統制の調整を伴う場合、投資効果分析、申請書類の準備、制度設計を通じて、変革をより実行可能かつ信頼できるものにすることができる。これらのサービスは、AIを単なる技術ツールからガバナンス能力へと昇華させる上で不可欠な後ろ盾となる。
AIがもたらす圧力は軽視できないが、それは同時に新たな可能性を開く。日台企業がそれぞれの役割を見出し、専門機関の支援を受けながら進めることで、次の段階の国際協力が徐々に形になっていくだろう。