耀風ビジョン

Society 5.0から共創型ガバナンスへ

2016年、日本は第5期科学技術基本計画の中で「Society 5.0」構想を掲げ、AI、IoT、ビッグデータなどの技術を通じて、少子高齢化や自然災害といった社会課題を解決し、国民の生活の質と経済効率の向上を目指した。北海道、福島、東京などでは、この構想を実証するスマートシティの実験が進められている。

台湾も、都市の高齢化、交通混雑、環境監視の不備といった課題を抱えており、都市ガバナンスの転換に向けて、スマートシティの導入が不可欠となっている。

1. 日本におけるスマートシティの特徴と事例

  • 政策主導と段階的な実証プロセス:2000年代以降、日本は「エコモデル都市」や「スマートコミュニティ」の取り組みを通じて、エネルギー管理システムやマイクログリッドなどを実証し、徐々に民間主導の次世代型スマートシティモデルへと移行してきた。現在までに157地域で約229件のプロジェクトが進行しており、それぞれの地域特性に合わせて、高齢化、交通孤立、エネルギー分散などの課題に対応している。
  • 藤沢サステナブル・スマートタウン:東京の西約50kmに位置するこの街は、旧パナソニック工場跡地を再開発して誕生した。約3,000人の住民が暮らし、太陽光パネル、ヒートポンプ、燃料電池、スマートホーム管理システムを統合。災害時には3日間のオフグリッド運転が可能で、CO₂排出量を70%、水使用量を30%削減する目標を掲げている。
  • 柏の葉スマートシティ:地方自治体と民間企業の連携によるPPP(官民連携)モデルで、交通、エネルギー、医療の分野におけるスマート化を推進している。「共創型ガバナンス」の先進事例として注目されている。
  • 官民連携と市民参加型のガバナンス:日本のスマートシティは「人間中心のガバナンス」へと進化している。政府主導から、市民、企業、学術機関を巻き込んだ共創型の政策形成へとシフトしており、藤沢では住民サービスセンターを集約し、エネルギーデータの共有やスマート街路灯の制御を導入するなど、開かれたガバナンスの実現を進めている。

Fujisawa SSTのセントラルパーク内の施設(写真)
Image Source:https://fujisawasst.com/JP

2. 日本におけるスマートシティの最新動向


ここ数年の動きは、インフラ整備から制度の成熟段階へと移行していることを示しており、台湾にとっても学ぶべき実践知が多く含まれている。

まず、政策面では、日本政府が2025年度予算で約225億円を計上し、AI、IoT、自動運転、地域型5Gなどのスマートシティ技術への補助を拡大。東京、神戸、札幌、福岡など12以上のモデル都市で展開されており、技術導入からガバナンス全体への転換が明確に示されている。

民間側では、「実験都市」のアプローチが進んでいる。トヨタが富士山麓で開発中の「Woven City」は2025年初めに第一段階が完成し、同年秋には最初の100人の住民が入居予定。水素エネルギー、自動運転、スマートホーム、センシングネットワークなどを実生活で検証する「リビングラボ」として注目されている。一方、パナソニック主導の藤沢SSTも2024年から第二フェーズに入り、CO₂排出量を2034年までに2020年比で50%削減する目標と、再生可能エネルギーによる自給率60%以上を掲げ、生活単位での脱炭素を推進している。

制度面では、日本政府が「アジャイル・ガバナンス(Agile Governance)」という概念を提唱。急速に変化するテクノロジーや社会課題に対応するため、法制度や規制の柔軟性と、マルチステークホルダーによる迅速な意思決定を重視している。これは、スマートシティにおけるデータガバナンス、倫理的意思決定、技術実証のあり方において、台湾にとっても制度設計の参考となる。
 

3. 台湾におけるスマートシティの現状と課題

 

  • 実施体制とガバナンスの設計:2016年以降、台北市では「スマートシティプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)」を設置し、地方自治体と企業との連携によるPoC(概念実証)を推進。150件以上のプロジェクトが立ち上げられてきた。台北、桃園、台南などの主要都市では、AI交通制御、スマート街灯、空気品質監視などの導入が進み、国際展示会「Smart City Summit & Expo」も毎年開催されている。
  • 実務面での課題と制度的なギャップ:技術導入の先行事例はあるものの、地方自治体の能力差、データの分断、長期的なガバナンス体制の欠如といった課題が依然として存在する。標準化の不足や都市間連携の弱さ、市民参加が上意下達的であることなどが、スマートシティの本質的発展を妨げている。
  • 国際的な評価と肯定的な動き:2024年のIMDスマートシティ指数において、台北市は前年より13ランク上昇し世界第16位、アジアで第5位となり、「インフラ」と「テクノロジー」の両面で高く評価されている。

4. 台湾への三つの戦略的提言

 

  1. 高齢化と災害対応を軸とした実践的ユースケースの設計:災害多発地域や高齢社会のニーズを起点とし、スマート避難所、自立型エネルギー供給、遠隔医療、物流支援などの導入を検討。地方の介護施設や過疎地をモデルエリアとすることで、制度面と技術面の両方の実証が可能となる。
  2. 市民参加と共創型のボトムアップ型ガバナンスの構築:柏の葉や藤沢のように、市民参加型のフィードバックアプリ、参加型予算制度、オープンデータプラットフォームを整備し、現場のニーズから政策が形成される流れを作るべきである。
  3. サンドボックス制度と段階的な検証モデルの導入:藤沢SSTや柏の葉のように、特定の地域を「スマートシティ・サンドボックス」として設定し、企業、政府、学術機関が共同で制度や技術を検証する環境を整えることで、持続可能かつ拡張可能な制度設計が可能となる。

 

5. 制度設計を通じてスマートシティの本質に迫る


台湾はICTや半導体分野で世界有数の技術力を持つが、真に持続可能なスマートシティの実現には、制度設計とガバナンスの革新が欠かせない。日本の政策設計、市民参加、実証モデルから学び、台湾独自の人間中心型都市ガバナンスを構築することが求められている。

この変革の中で、会計士事務所のような専門サービス機関も新たな役割を担い始めている。スマートシティがESGの原則と結びつく中で、サステナビリティ報告、カーボンリスク管理、内部統制の需要が急増しており、会計事務所は単なるコンプライアンス支援を超えて、制度構築やガバナンス設計の戦略的パートナーとして機能し得る。

都市の外観を変えるだけでなく、意思決定の仕組みを再設計すること——それが真のスマートシティである。台湾がリーダーとなるためには、テクノロジー、制度、専門知を結集した統合的な都市戦略が必要である。