耀風ビジョン

親しみのある異国の職場――日本で働く台湾人材の強みと壁

 

1. 変化の時代における新たな選択肢:なぜ台湾の人材は日本を目指すのか?


「海外で働きたい。でもアジアからは離れたくない。」このフレーズは近年、台湾の就職フォーラムやSNSで頻繁に見かけるようになってきた。日本はその中で、語学力や国際的な視野、文化への関心を持つ台湾人材にとって、有力な選択肢となっている。

世界のサプライチェーンが再編される中、日本企業は国内市場を維持しながら、アジアや世界への展開を強化している。それに伴い、語学力、異文化コミュニケーション力、専門技術を持つ人材の需要が急速に高まっており、台湾人材はこの要件において独自の価値を発揮している。

文化的な親和性、高い教育水準、若い世代の語学能力、ビジネスマナーへの理解などにより、台湾人は他の文化圏の外国人材と比較して、現場での適応力や安定した協業の実現において優位に立つ。

2. 台湾人材の強み:語学力だけではない


日本で働く台湾人は、しばしば日本人上司から「誠実で、丁寧で、コミュニケーションが取りやすい」と高く評価されている。語学力や技術力に加え、以下のような特徴が彼らを際立たせている:

  1. 語学と文化の“バイリンガル感覚” - 多くの台湾人は高校・大学時代から日本語に触れ、一部は日本留学やアルバイト経験を持つ。そのため、日本社会における「言外の意味」や「表情の管理」、「沈黙のメッセージ」といった非言語的なコミュニケーションにも敏感である。また、日本人の曖昧さや遠回しな表現にも理解があり、たとえ納得できなくても、思いやりや戦略的な配慮を持って対応できる。この感性は、国際プロジェクトやグローバルチーム内で特に重要である。
     
  2. 技術的素養と実務への応用力 - 台湾の教育は実践重視であり、IT、電子、製造、エンジニアリング、金融、会計といった分野で即戦力となる人材を多数育成している。多くの台湾人材は入社後すぐに業務を開始でき、長期的な研修を必要としない。実際、彼らは短期間で日本側のシニアスタッフと連携し、業務プロセスの非効率を指摘し、改善提案を行うなど、単なる「指示をこなす技術者」ではなく、「提案し推進できるパートナー」として活躍している。
     
  3. 調整力と文化的クッションの役割 - 台湾人のコミュニケーションスタイルは、日本の保守性と欧米の主張の強さの中間にあり、「言わないこと」と「言い過ぎ」の間のバランスをとるのが得意である。このスキルは、社内外のプレッシャーへの対応や顧客対応、部門間の調整といったシーンで極めて効果的である。
Image source:Freepik

3. 近しいようで遠い:文化的・制度的な深層ギャップ


日本企業における台湾人材への関心は高まっているが、長期的かつ安定して活躍できる人は決して多くない。その理由は、能力不足ではなく、職場文化、制度設計、昇進の考え方などに起因する。

  1. 昇進と制度の不透明な壁 - 多くの日本企業では今もなお「年功序列」や「社内信頼」が昇進の基準となっており、外国人が管理職や意思決定層に入るには暗黙のハードルが存在する。たとえ何年も真面目に働いても、あるレベル以上には上がれないという状況に直面することもある。企業側も「何年いる予定?」「いずれ帰国するの?」「家庭は?」といった要素を踏まえ、重要な任務やポジションを任せるか否かを判断している。
     
  2. 見えにくい社交のプレッシャー - 就業時間外における飲み会、週末のサークル活動、祝日の集まりなど、日本企業には形式外の交流文化が残っている。台湾人がこれを断ると「付き合いが悪い」と見なされ、無理に参加すればストレスと疲労を感じることもある。これらのイベントは一見任意だが、実際には人脈形成や昇進、業務分担に関わる重要な「非公式承認プロセス」となっており、文化的な壁のために外国人がその中核に入るのは難しい。

4. 日本企業の雇用制度の変革:外国人材の役割の再設計


こうした課題に対し、個人の適応努力に加え、企業側の制度も徐々に変化している。

  1. 職能に基づく等級制度の導入 - パフォーマンスに応じた昇進を可能にするグレード制度が拡がりつつある。
  2. 外国人材の業務設計の見直し - 国際事業、商品開発、管理職候補などの分野に外国人材を配置する企業も増えており、「現場から始めるしかない」という従来の慣習を見直している。
  3. テレワークと柔軟な勤務形態 - コロナ以降、物理的出勤の必要性が減り、台湾人にとっても働きやすい環境が整いつつある。

ただし、こうした変化はまだ一部に限られており、中小企業や保守的な業界では依然として文化的・組織的なハードルが高い。

5. 個人と制度の間に必要な橋渡し


人材の国際流動を企業の競争力につなげるには、人事部門が「採用できる」だけでなく、制度的に「定着させられる」必要がある。例えば:

  1. 海外赴任者の給与配分と申告は、どのようにすれば二重課税を回避できるか?
  2. 駐在中の台湾籍マネージャーの社会保険はどう取り扱うべきか?
  3. 日本で得た所得は台湾の所得税申告に含める必要があるのか?

こうした一見地味な手続きも、税務・労務・法令順守・ESG報告といった広範な分野にまたがり、今や企業も個人も無視できない課題となっている。

会計事務所は、単なる決算・申告の代行者にとどまらず、制度構築や個人税務のアドバイザーとしての役割を果たしている。たとえば、海外所得の申告、非課税枠の判断、税務上の居住者認定、日本における在留要件の確認など、赴日台湾人にとってのリスク回避に貢献している。

また、企業に対しても外派人員の税務試算や社会保険の設計、人事コンプライアンスの整備支援など、制度化された人材移動支援の枠組みづくりを後押ししている。

企業と個人がそれぞれの法的立場と義務を理解し合うことで、人材移動は混乱ではなく、成長のチャンスとなる。

6. 結びに代えて:日本就職は「代替」ではなく「再定義」


日本就職は、かつての「選択肢の一つ」ではなく、「キャリアを再構築するための機会」として捉え直されている。

台湾人材の強みは、語学や技術力だけではない。制度を読み解き、ルールを活用し、自らの立ち位置を築く力にある。企業がその可能性を認め、制度的な支援や専門家の助力を提供すれば、人材の流動を組織成長の原動力に転換できる。

異なる言語や価値観の中で自分の場を見つけようとする意志は、単なる移動ではなく、プロフェッショナルとしての成長の証である。そうした人材は、制度的に支援されるべきであり、企業によって重視され、社会からも正しく評価されるべき存在である。