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EU・CBAM延期観測をどう読むか──台湾輸出企業は変革を継続すべきか、それとも様子見か。『国際炭素関税』を巡る財務戦略

ここ数か月、市場では次のような声が聞かれるようになってきた。
「EUのCBAMは2027年まで延期されるかもしれない。であれば、しばらく様子を見るべきではないか?」

台湾の輸出企業、とりわけ鉄鋼、アルミニウム、セメント、化学、エネルギー多消費型の製造業では、同じ問いを胸中で計算している企業が少なくない。
——いま、資本支出をいったん抑えるべきかどうか。

しかし、会計士兼財務アドバイザーの立場から、あえて厳しい言い方をするならこうだ。
延期は取消しではない。そして、様子見こそが最もコストの高い選択になる可能性がある。

1. CBAM 延期の本当の意味──緩和ではなく、「準備のための時間」

まず制度を整理しておこう。

炭素国境調整措置(CBAM)は、2023年から移行期間に入り、当初は2026年以降、実質的な課金を段階的に導入することが想定されていた。
近頃、「2027年まで延期される可能性がある」との観測が市場で語られているが、ここで押さえておくべき重要な点がある。

現時点で公表されている情報はいずれも、課金のタイミングや支払いスケジュールに関するものであり、制度そのものの方向性が見直されたわけではない。

立法および政策の流れを見れば、CBAMの中核的な目的は一貫して明確だ。
それは、気候中立の達成と域内産業の競争力確保を同時に実現するための政策手段であるという点にある。

言い換えれば、これは制度のブレーキではない。企業に対し、より現実的な転換準備期間を与えているにすぎない。

輸出企業にとって本当に問うべきなのは、「待つべきかどうか」ではない。
「2027年に全面的な課金が確定した場合、現在のコスト構造で耐えられるのか」という問いである。
 
画像の出典:FREEPIK
 

2. 「様子見」がもたらす財務リスク──CAPEX を抑えることではなく、将来の一括的ショックを蓄積すること

多くの企業が様子見を選ぶ理由は、実は極めて単純だ。
低炭素設備への投資、プロセスの最適化、エネルギー転換——いずれも CAPEX を伴い、足元の投資負担は確かに重い。
だが、財務の観点から見て本当に危険なのは、分散投資ではなく、リスクが一気に顕在化することである。

もし企業が何の対応も取らないまま CBAM が本格的に全面課金へ移行すれば、同時に次の三つの事態に直面することになる。
  1. 炭素コストの一括顕在化:これまで製造プロセスの中に埋もれていた排出が、関税型コストとして表面化し、粗利益を即座に圧迫する。
  2. 設備投資の同時多発的な強制:その時点では、自社だけでなく業界全体が設備、能力、エンジニアリング資源を奪い合う状況に陥る。
  3. 市場および金融機関による同時的なリスク再評価:投資家や銀行は、企業の転換を待ってはくれない。対応が遅れた企業は、即座に「高炭素・高リスクのサプライヤー」として分類される。

会計士としての経験から言えば、CAPEX を先送りしても、支出が減ることはない。
同じ年に、より大きな金額を支払うことになるだけだ。
 
画像の出典:FREEPIK
 

3. CBAM を環境問題ではなく、CAPEX のスケジューリング課題として捉える

成熟した企業は、「低炭素に取り組むべきかどうか」という問い方はしない。
代わりに、次のように考える。

「低炭素投資を、どのように予測可能で段階的な資本支出に落とし込むか」

ここで求められるのは、発想の転換だ。
  • 旧来の考え方:CBAM は追加コストであり、受動的に受け入れるもの
  • 新しい考え方(財務の視点):CBAM は、プロセス最適化を前倒しで迫るストレステストである
実務的により堅実なアプローチは、次の通りだ。
  • 延期期間を活用し、高炭素プロセスを段階的に更新する
  • 低炭素投資を、2〜3 年に分割した CAPEX 計画として設計する
  • 将来発生し得る炭素関税を、「現在コントロール可能な減価償却コスト」へと転換する

この方法のメリットは極めて明確だ。
財務諸表で吸収でき、キャッシュフローの見通しが立ち、経営陣が不意打ちを受けることもない。
 

画像の出典:FREEPIK
 

4. なぜ「先行的な対応」が、株主と銀行の信頼を安定させるのか

CBAM が企業に与える影響は、決して通関書類の上だけにとどまらない。実際には、次の三つの領域に直接反映される。
  1. 株主が長期的な競争力をどう評価するか:高炭素な事業構造は、将来利益の不確実性が高いことを意味する。
  2. 銀行が信用リスクをどう判断するか:炭素コストの不透明さは、そのまま潜在的なキャッシュフローリスクと見なされる。
  3. 顧客が自社を安定的なサプライヤーとして位置づけるかどうか:国際ブランドはすでに、サプライヤーに対して炭素データや転換ロードマップの提示を求め始めている。

低炭素プロセスを先行的に整備する最大の価値は、「どれだけ税負担を減らせるか」ではない。
それは、すべてのステークホルダーに対して、強制されて動いているのではなく、計画的にリスクを管理しているというメッセージを明確に示すことにある。

この姿勢は、融資条件、長期契約、そして企業価値の安定性に、極めて現実的な影響を与える。
 

5. 結び:CBAM の延期は、準備ができている企業だけが享受できるボーナスである

専門の会計士として、私は次のように総括したい。
CBAM の延期は、決して立ち止まるための口実ではない。誤った意思決定のリスクを最小化するために与えられた時間的な猶予にほかならない。

2027年に本当に打撃を受けるのは、最も早く投資した企業ではない。
最後まで動かなかった企業こそが、最大のリスクを背負うことになる。

 


本稿で参照した制度および政策上の根拠

  • European Commission — CBAM に関する公式政策および立法文書
  • OECD — カーボンプライシングおよび国境調整に関する分析
  • IFRS Foundation — 気候リスクと財務影響の開示フレームワーク
  • World Bank — Carbon Pricing Dashboard

資料ツールのダウンロード

➡️ CBAM による財務影響 試算ツール



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