炭素排出、エネルギー、設備投資は、すでに財務・会計部門にとっての基本事項となっている。
しかし、2026年以降、資金調達条件や信用格付に実際に影響し始めるのは、必ずしも E ではなく、S であるケースが増えていく。
会計士の立場から、あえて率直に言おう。
銀行や投資機関は、もはや「どれだけ炭素を排出しているか」だけを見ているのではない。
彼らが問い始めているのは——その組織は本当に持続可能なのか、耐えられる構造を持っているのか、という点だ。
1. なぜ「社会(S)」が、銀行にとって財務リスクとして扱われ始めているのか
銀行にとって融資で最も警戒すべきなのは、企業が環境に配慮していないことではない。それよりも、事業運営が不安定で、リスクが予測できないことだ。
そしてここ数年、国際的な金融機関は次の事実に気づき始めている。
- 高い離職率 → 事業の断続化や教育・訓練コストの増加
- 賃金構造の不均衡 → 労使紛争やレピュテーションリスク
- 労働安全事故 → 法的責任およびキャッシュフローへの直接的影響
そのため、S 指標は現在、信用格付モデルに組み込まれつつあり、企業が長期的に安定した経営能力を備えているかどうかを判断する指標として用いられている。
画像の出典:FREEPIK
2. 2026年以降、どの S 指標が最も定量化されやすいのか
会計および監査の観点から見ると、銀行や投資機関が特に注目しているのは、次の三つの**「数値として把握できる」S 指標である。**- 従業員の離職率
離職率が高いことは、管理コストの増加や内部制度の不安定さを示す。金融機関にとって、これは人事の問題ではなく、事業継続性に関わるリスクである。 - 賃金構造と公平性(DEI を含む)
性別や属性による賃金格差の有無は、徐々にガバナンスおよびレピュテーションリスクの兆候として捉えられるようになっている。特にグローバルなサプライチェーンを持つ企業では、こうしたデータの開示が求められ始めている。 - 労働安全に関する指標
労災発生率や事故頻度は、保険コスト、法的責任、キャッシュフローの安定性に直結する。銀行は、事故が起きてからリスク評価を見直すことはない。
画像の出典:FREEPIK
3. 重要なのは「制度があるかどうか」ではなく、「データが信頼できるかどうか」
多くの企業はこう言う。「制度はすでに整っています。」
しかし、会計士の立場から一つ注意しておきたい。
制度がどれほど立派に書かれていても、データを検証する仕組みがなければ、財務的な信頼性は成立しない。
金融機関が本当に見ているのは、どんな方針を掲げているかではない。
彼らが確認したいのは、次の点だ。
- データはどのように取得されているのか
- 計算ロジックは一貫しているのか
- 年度間で比較可能なのか
4. S 指標を「会計化」してこそ、資金調達上のメリットにつながる
成熟した企業の対応は、受動的な開示ではなく、能動的な管理にある。実務経験上、S 指標を財務上の優位性へと転換できている企業は、概ね次の三点を実行している。
- 人材関連データを制度化し、検証可能な形に整備する
- 安定的かつ年度間で比較可能な指標を構築する
- 資金調達や信用評価の場面で、リスク管理の考え方を明確に説明できるようにする
5. 結び:S 指標は道徳的な加点ではなく、財務の安定性を示す証明である
2026年以降、企業の社会的責任は、財務能力の一部として正式に評価されるようになる。会計士の立場から、こう総括したい。
従業員をどう扱うかは、最終的に銀行からどう扱われるかとして返ってくる。
本稿で参照した制度および会計上の根拠
- International Sustainability Standards Board(ISSB)— IFRS S1 / S2
- OECD — Social risks & corporate performance
- World Bank — ESG & credit risk
- IFRS Foundation
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