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2025年台湾におけるESGリスクの新潮流:気候変動から自然資本へ

2025年は、台湾企業にとってESGリスク開示の新たな分水嶺となる年です。多くの企業はすでに炭素排出やエネルギー使用といった課題に対応し始めていますが、世界的な潮流から見ると、単一の環境テーマの開示だけでは、より包括的なサステナビリティ要求に十分対応できなくなりつつあります。
四大会計事務所および国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の最新の観察によれば、自然資本(Natural Capital)、生物多様性、水資源の安全保障が、ESG財務リスク評価における新たな焦点として急速に浮上しています。
本稿では、最新の国際規制、実務事例、企業の対応戦略を切り口に、台湾企業がこれらの「非炭素リスク」の開示ポイントを理解し、対応する財務管理の思考を構築することを目指します。

1. ESG規制の背景と国際的潮流

1.1 気候開示から自然資本開示へ

2023年より、EUのCSRDは企業に対し、環境に関する「ダブル・マテリアリティ(double materiality)」の開示を正式に義務付けました。すなわち、気候変動の影響を受ける自社の財務リスクに加え、企業が生態系に与える実質的な影響についても評価する必要があります。ISSBのS1およびS2は気候開示に焦点を当てていますが、その公開説明の中で、将来的により多くの自然資本関連の課題を包含することを明示しています。さらに、国連の下部組織である自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)も2023年9月に最終フレームワークを公表し、企業に対し森林、土地、淡水、海洋といった自然資源への依存度および影響を開示することを求めました。これにより、企業にとって次なる財務開示の大きなプレッシャーとなっています。

1.2 世界の投資家による自然資本リスクへの関心の高まり

ブルームバーグNEFのサステナビリティ研究によると、2024年には欧州の大手投資機関の65%以上が投資判断に自然資本を組み入れています。その内容には、農業サプライチェーン、水資源への依存、原材料の調達リスクが含まれます。企業がこれらの情報を提供できなければ、格付け、資金調達コスト、さらには協業の機会に直接的な影響を及ぼすことになります。
気候開示
画像の出典:FREEPIK
 

2. 台湾企業が直面しつつある三つの開示課題

2.1 開示フレームワークはまだ自然資本を包含していない

台湾企業の多くは、現行のESG報告において炭素排出量の算定やエネルギー管理に重点を置いています。しかし、生物多様性、水リスク、土地利用といった情報については、体系的な把握や開示の根拠が不足しています。企業は、TNFDフレームワークの適用可能性を評価するか、あるいは既存のリスク管理フレームワークを統合し、自然資源への依存度や影響を財務情報に組み込む必要があります。

2.2 サプライチェーンの透明性の不足

サプライチェーンの上流に農林水産業、鉱業、水資源多消費型産業が含まれる場合、企業自身は直接的な影響源でなくても、開示不足によって格付け機関から高リスクと見なされる可能性があります。企業は、重要なサプライヤーに対してリスク分類を行い、調達要件の更新や定期的な審査を実施し、そのデューデリジェンスのプロセスを報告書に開示する必要があります。

2.3 データ統合の難易度の高さ

炭素排出量データには比較的明確な算定方法がありますが、自然資本の定量化については依然として議論や技術的ハードルが存在します。台湾企業の多くは、水フットプリントや生物多様性リスクマップといった情報をまだ構築しておらず、財務諸表に統合するための内部統制プロセスも欠けています。データの出所、範囲の境界、裏付け文書といったレベルから段階的に構築していく必要があります。
 
しつつある三つの開示課題
画像の出典:FREEPIK
 

3. 財務制度はいかに「自然資本」リスク開示に対応すべきか

3.1 自然資源リスクをリスク管理フレームワークに組み込む

企業は、既存のエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)から着手し、水資源や土地利用といった自然資源への依存度や潜在的な影響を洗い出すことができます。その上で、対応するKPIや施策を設定することが求められます。リスク管理プロセスに自然関連の財務リスクを明確に位置付けることで、将来的に合理的なレベルでの開示が容易になります。

3.2 社内における「自然資本リスク対応表」の作成

企業は、サプライチェーン、生産活動、製品設計、事業運営の各過程で関わり得る自然リスク項目を整理し、それに対応する責任部署や利用可能なデータソースを明確化するため、部門横断的な対応ロジック表を作成すべきです。この表は、将来的にTNFDやその他のサステナビリティ報告を作成する際の重要なツールとなり、監査を受ける際にも迅速な対応を可能にします。

3.3 会計データとリスク情報の統合

企業は、環境修復費用や水資源の調整コストといった自然資本コストを、財務開示の注記項目として段階的に組み入れ、資本的支出や営業費用と結び付けていくことができます。これにより、投資家が企業のサステナビリティへの取り組みの実質的な影響を理解しやすくなるだけでなく、将来的に導入され得る環境税や自然関連の財務責任への先行対応にもつながります。

風險揭露
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4. 結論

炭素排出から自然資本まで、それは決して一つの報告窓口だけで完結できる課題ではありません。急速に変化するサステナビリティ開示の潮流に対応するためには、財務・会計、コンプライアンス、オペレーション、調達などの部門が連携し、制度化された責任のチェーンと情報統合のロジックを構築する必要があります。
耀風会計師事務所は、企業が《ESG財務診断表》を活用して初期的な自己評価を行い、自社の自然資本、気候リスク、ESG制度化における成熟度を把握し、短期・中期・長期の改善計画を策定することを推奨します。私たちは今後も規制動向の分析や制度構築の支援を継続的に提供し、企業が世界的なサステナビリティの波に直面する際、単なるコンプライアンスにとどまらず、本当に価値を創造できるポイントを見出せるよう支援してまいります。


 


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耀風公認会計士事務所は、豊富なESG財務コンサルティングの経験を有しており、最新の法規制に対応したサステナビリティ報告フレームワークの構築を支援いたします。
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