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CBAMの延期=安心ではない:台湾企業が直面する炭素関税リスクと対応リスト

欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism)は、輸入品に対して設けられたカーボンプライシングであり、カーボンリーケージを防ぎ、EU域内製品と同等の炭素コスト負担を輸入品にも課すことを目的としています。規定によれば、輸入業者は製品の実際の炭素排出量に基づいてCBAM証書を購入し、その炭素フットプリントによる環境コストを反映させなければなりません。
CBAMの施行が延期される可能性があるとの報道もありますが、企業はそれによって生じるコンプライアンス圧力や制度の変革の流れを無視することはできません。特に輸出志向の産業において、サプライチェーンの炭素データや会計制度が未整備の場合、今後は通関や税務のコストが急増するだけでなく、国際競争における市場優位性を失う可能性もあります。本稿では、企業が直面する一般的なリスクと財務制度上の課題に着目し、CBAMに対応するための5つの提案を示します。これにより、台湾企業が検証可能な炭素データ制度と会計分類を早期に構築し、コンプライアンス対応力を強化することを支援します。
 

1. CBAMの課税は延期されたが、情報開示のプレッシャーは依然として存在

1.1 2026年までの「移行期間中の開示要件」は見過ごせない

EUのCBAMは2026年から正式に課税が開始される予定ですが、2023年10月以降、EU向け製品にはすでに四半期ごとの炭素排出報告が義務付けられています。これらの報告書は、認可された検証機関による署名が必要で、トレーサビリティと検証性を備えていなければなりません。企業が必要なデータを完全に提出できない場合、申告失敗や書類の差し戻し、さらには高リスクリストへの掲載といったリスクに直面する可能性があります。

1.2 財務制度との未統合が検証の盲点に

現在、多くの企業では炭素排出データをCSRや環境・安全部門の業務として扱っており、財務会計制度には統合されていません。その結果、会計分類が混乱し、輸出価格や税務申告との整合性が取れない状況となっています。将来的にCBAM証書の価格が導入された場合、このような制度の不整合が、EUによる検証時の疑義や税務上の争点となる可能性があります。
 
欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム
画像の出典:FREEPIK
 

2. 台湾企業に見られるCBAM対応のギャップ

2.1 サプライチェーンの炭素データ把握が不十分

一部の企業は、サプライヤーからの炭素データの出所を追跡できず、推定値しか入手できないケースもあります。また、ISO 14064/14067の基準に基づく証明がなく、情報開示の品質が不十分になる原因となっています。

2.2 炭素排出データと財務報告の対応関係が不在

企業内部に炭素排出量の調査データがあっても、会計科目やERPシステムとの対応関係が構築されていないため、財務諸表に具体的なコストや処理ロジックとして反映することができません。

2.3 炭素税の分類と社内責任者が不明確

企業は、将来的に発生し得る炭素税・カーボンプライス・CBAM証書などの分類方法を財務会計チームと明確に整理しておらず、データ統合や開示の窓口も未設定のため、社内における責任の所在が曖昧な状態です。
 
企業に見られるCBAM対応のギャップ
画像の出典:FREEPIK
 

3. 財務制度における5つの準備リスト

企業が検証の一貫性を確保し、炭素データと財務報告の統合度を高めるために、耀風会計士事務所は以下の5つの制度面からのアプローチを推奨します:
  1. 炭素データに対応した会計科目の設定
    エネルギー費用や工程に関わる減価償却など、炭素排出に関連する項目を、会計科目コードやERP上のタグ付けルールに対応させ、監査やクロスチェックを容易にします。
  2. サプライチェーンにおける報告制度の統合
    一次・二次サプライヤーと炭素データの報告プロセスを構築し、データの出所・計算方法・記録保管を確認。推定値に頼らず、検証可能なデータを確保します。
  3. 輸出関連炭素税の分類ロジックの事前設計
    炭素税をコストとして処理すべきか?CBAM証書はどのように会計処理するか?顧客への価格転嫁が必要か?といった論点を、会計士と事前に整理しておきます。
  4. 部門横断の炭素データ責任体制の構築
    財務、工務、環境安全部門が共同でデータ更新と審査を行う体制を設計し、開示ごとの責任所在やデータのバージョン管理を明確にします。
  5. 税額および製品ラインへのリスク影響を試算
    EUが想定する炭素価格(例:1トンあたり85ユーロ)をもとに、各製品ラインの潜在的なコスト影響を試算し、将来の価格交渉や製品構成の見直しに活用します。
     
財務制度における5つの準備リスト
画像の出典:FREEPIK
 

4. 結論:制度整備は法改正の待機よりも重要

CBAM制度はすでに実質的な運用段階へと移行しており、たとえ短期的に課税スケジュールが未確定であっても、企業が積極的に準備しなければ、制度対応力を育てる貴重なタイミングを逃すことになります。特に輸出志向の産業において、炭素データはもはや環境対策としての付随情報ではなく、通関スピード、製品コスト、市場での存続を左右する重要な要素となります。
制度が未整備のまま実務に臨めば、情報開示のミスや申告の不整合が発生するだけでなく、検証・取引の過程でコストに関する争点や信用問題、さらには発注移転のリスクを招くおそれもあります。そのため、「政策待ち」をしている間にこそ、炭素データと財務制度の接続を積極的に進め、炭素データにも財務報告と同様の検証ロジック、分類基準、審査プロセスを備えさせるべきです。
耀風会計士事務所は企業の皆様にこう呼びかけます:CBAMは単なる関税問題ではなく、「制度の透明性」が問われる試金石です。


 



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