企業のESG内部統制はどう築く? 財務会計制度から始める“三つの防衛線”
サステナビリティ開示に関する規制が厳格化するなか、ESG報告はもはや「書けばよい」というレベルのものではなくなり、企業の誠実な経営姿勢とリスク管理の根拠として重視されるようになっています。近年、台湾の金融監督管理委員会(FSC)や証券取引所は、企業が開示するサステナビリティ情報の「内部統制メカニズム」を整備することを明確に求めています。すなわち、ESG開示の正確性と一貫性を担保する制度構築が、企業にとって避けては通れない課題となってきたのです。とはいえ、実務の現場では「どこからESGの内部統制制度を整えればよいのか」という悩みを抱える企業も少なくありません。
本稿では、公認会計士の専門的な視点から、企業が構築すべきESG内部統制の三つの防衛線について解説し、制度としてチェック・証明可能なESG情報管理体制の第一歩を提案します。
本稿では、公認会計士の専門的な視点から、企業が構築すべきESG内部統制の三つの防衛線について解説し、制度としてチェック・証明可能なESG情報管理体制の第一歩を提案します。
1. なぜESGの内部統制が重要なのか?
サステナビリティ報告の開示が義務化される今、ESG情報の信頼性は、監督当局、投資家、そして市場から極めて高い関心を集めています。FSCが発表した『上場企業のサステナビリティ行動計画2.0』では、ESG情報の正確性と一貫性が今後の監査における重要項目になると明記されており、適切な内部統制制度を整備していない企業は、虚偽記載とみなされるリスク、信用失墜、さらには制裁措置を受ける可能性もあります。
さらに、ESG情報が財務データと連携されていなければ、企業内部の管理効率が下がるだけでなく、サステナビリティ格付けや融資条件、市場からの信頼といった外部評価においても競争力を失うリスクがあります。
さらに、ESG情報が財務データと連携されていなければ、企業内部の管理効率が下がるだけでなく、サステナビリティ格付けや融資条件、市場からの信頼といった外部評価においても競争力を失うリスクがあります。
画像の出典:FREEPIK
2. 企業におけるESG内部統制の“三つの防衛線”
企業がサステナビリティ情報の管理体制をシステム的かつ実効性あるものとして構築するためには、従来の内部統制フレームワークを参考に、「三つの防衛線(Three Lines of Defense)」という考え方を導入することをおすすめします。このアプローチにより、情報の出所が追跡可能で、プロセスが明確、かつデータの正確性が担保される体制を構築することが可能となります。
2.1 第1の防衛線:データを生み出す現場部門
ESG情報における最初の防衛線は、実際にデータを生成する部門です。たとえば:
- 製造部門:温室効果ガス排出量の記録
- 人事部門:従業員の健康状態や労働安全に関する統計
- 法務部門:ガバナンス体制やコンプライアンス関連書類の管理
しかし、現場レベルでは以下のような課題が多く見られます:
フォーマットのばらつき、算出基準の不統一・プロセスの不透明さ、SOP(標準作業手順)の欠如により、報告作成時に多くの手戻りや重複作業が発生してしまうのです。
解決策:部門横断的なデータ記録ガイドラインを策定し、各項目の集計・確認を担当する窓口(責任者)を明確に指定する。
フォーマットのばらつき、算出基準の不統一・プロセスの不透明さ、SOP(標準作業手順)の欠如により、報告作成時に多くの手戻りや重複作業が発生してしまうのです。
解決策:部門横断的なデータ記録ガイドラインを策定し、各項目の集計・確認を担当する窓口(責任者)を明確に指定する。
2.2 第2の防衛線:財務会計部門とリスク管理体制
第2の防衛線は、財務会計部門とリスク管理の仕組みにあります。
ESG情報は単なる報告書にとどまるべきではなく、企業の日常的な財務管理や内部統制制度に統合される必要があります。たとえば:
ESG情報は単なる報告書にとどまるべきではなく、企業の日常的な財務管理や内部統制制度に統合される必要があります。たとえば:
- 炭素排出データを予算モデルや原価分析に組み込む
- ERPシステムにESG専用の入力項目を設ける
- サステナビリティKPIと連動した評価・報酬制度を導入する
このように、財務制度との一体化を図ることで、ESG情報の検証可能性と組織内の一貫性を確保し、将来的な重要事実の公表への対応力も強化されます。
2.3 第3の防衛線:監査および外部検証
最後の防衛線は、社内監査および第三者による検証です。
企業は以下のような取り組みによって、このラインを強化することができます
企業は以下のような取り組みによって、このラインを強化することができます
- 社内ESG監査プロセスの構築
- 公認会計士や検証機関による妥当性テストの実施
- データ収集・集計プロセスが適切に管理されているかを定期的に確認する内部制度の健全性チェック
このように多層的な監査メカニズムを導入することで、データミスやグリーンウォッシュのリスクを低減し、ESG報告の信頼性と市場での評価を高めることが可能となります。
画像の出典:FREEPIK
3. ESG内部統制のはじめ方:3つのステップ
ESG内部統制の体制を構築するには、段階的に、実行可能なステップから着手することが重要です。以下の3ステップから始めてみましょう:
- 現状のESGデータとプロセスの棚卸し:
どの部門がどのデータを担当しているかを整理し、記録基準の統一が図られているかを確認します。 - 制度設計と責任体制の明確化:
部門横断的な協力体制を整備し、ERPや会計システムにESG関連の入力項目を設定します。 - 監査・検証プロセスの導入:
ESGデータの流れを定期的に見直し、財務報告との整合性を確保して、市場からの検証に耐えうる体制を築きます。
4. 結語:ESG情報を、経営の「確かな土台」に
サステナビリティが求められる時代において、ESG開示は単なる法令遵守ではなく、企業のレジリエンス(経営の持続力)とリスク管理能力を示す指標となっています。多くの企業が膨大な時間をかけてサステナビリティ報告書を作成していますが、市場、投資家、監督当局が最も重視しているのは、実は情報の信頼性です。ESG情報の信頼性を担保するためには、データの発生源である現場部門、財務制度、そして監査・検証プロセスを含む内部統制の仕組みを整備することが不可欠です。これにより、虚偽記載のリスクを低減できるだけでなく、ESGデータを経営判断や資本市場との対話のベースとして活用できるようになります。
ESG報告はゴールではありません。それは、企業がサステナブルなガバナンスと価値創造へと向かう第一歩なのです。
ESG報告はゴールではありません。それは、企業がサステナブルなガバナンスと価値創造へと向かう第一歩なのです。
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耀風公認会計士事務所は、豊富なESG財務コンサルティングの経験を有しており、最新の法規制に対応したサステナビリティ報告フレームワークの構築を支援いたします。
2025年のESG財務情報開示についてご不明な点がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
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